雨と猫
 気がつくと立ち上がり、外に向かっていた。

 名前を呼ぶ声が、遠くの方で聞こえてくる。でも、それに返事をする気力もなく、無造作に置かれた傘を持って家を出た。

 ざあああっと、強い雨が降っている。家の中で聞いていた音よりも、何倍も大きい。こんなタイミングのいい雨があるもんかと、感心してしまうくらいだ。

 傘を差してその中を歩くと、重力に従って落ちてくる雨の雫のビニールに当たる振動が伝わってくる。

 いつものように『ぽつぽつ』ではなく、今日の雨は『ぼつぼつ』だ。

 まるで、滝にでも打たれているような感覚になる。僕は今、一体どこに向かって歩いているのだろう。

 脚は、無意識に何処かに向かって歩いている。あてもなく、通行人の誰もいない静かな雨の音だけが響き渡る住宅街を歩いている。

 家の近くの、住宅街の中にあるには広さのある公園に着いた。もちろん、この天気の中遊んでいる人はおらず、しんとしている。

 しかし、一人だけ、女の子の姿があった。 
 
 いや、女の子と言うには大人びている。多分、僕と同じくらいの年齢だろう。

 その人は、傘を差さずに上を向いて、なんだか楽しそうに見えた。掌も同じように天を向いていて、身体全身で雨を感じているようだった。

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