響は謙太郎を唆す
2  クラスで話す

翌日も、明るい穏やかな朝だった。

気温も低め。
今年は連日、満開のまま、花が散らずに気持ちの良いお花見が出来そうな日だった。

響は早めに学校に着いてチラッと満開の桜並木の方を見た。春の匂いがするようだった。

昨日、この道の先で⋯⋯ と考えて、あわてて靴箱の方に向かう。

昨日はあのまま。

お互い名乗って、
「帰ります」とだけ言って、響はクルッと向きを変え校門から帰った。

朝になって内藤 謙太郎が同じクラスの響を見たら、

(何て言うだろう)

と思った。

(いや!全く知らん顔かもしれないし!)

とも思う。

謙太郎を気にしている自分も嫌だった。

でも、あの時感じた、謙太郎の優しさや穏やかさは本当だったのだろうか、とまた考えていた。
頭に触れていた彼の手のひらは、大きくて温かくて優しかった⋯⋯ 。

昨夜からずっと頭から離れなくて、何度も何度も考えてしまっていた。

響は、どうしても女の人にだらしない男性が嫌だと思ってきた。
そういう性質の人だけは、きっと他の事も全てだめなんだろうと思う。

謙太郎はそういう類の人じゃないのか。

でも何でだろう⋯⋯ 思い出す謙太郎は、嫌ではなかった。
頭を支えた手も、嫌じゃなかった⋯⋯ 。
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