響は謙太郎を唆す

このあたり。

入学式の後や学祭、学校公開の日は、学校を訪れた保護者達が記念撮影をしたり、季節が良いとお花見の人でいっぱいになっている。

でも普段は。
高校校舎と大学を行き来する先生や、見回りの守衛さんがたまに通るぐらいで、もともとあまり人通りがない。

今日は生徒が下校してしまっているから。
誰もいないようだった。

安心して桜を見上げながら静かな道を一人で歩く。

桜の花の間を通って響の頰に当たる空気は、浄化されているみたい。
しっとりとひんやり身体中をつつむ。

いつのまにか並木道の端まできていた。
目の前は四つ辻で、ちょっと広くひらけている。

そのまま道は大学までまっすぐに続いていている。
左側は高校の校門から出て駅に続く道に合流できる裏門に続いているが、裏門は施錠されている。
右は高校校舎の裏に続く細い道がある。

響は当然、元来た道を引き返して校門から出て帰るだけだった。

特に何の意図もなく桜を見ていただけだった。
そんな現場も見ようなんて、思ってもいなかった。

ただ人の声がしたと思って、桜を見上げていた頭を下げて、右の校舎裏がわの道を見ただけだった。


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