僕は、砂浜に座っている女の子の姿をから確認はしていたものの、話しかけようなどとは一切思っていなかった。多分、僕と同じくらいの年齢だろう。

 顔はなんとなくしか見えないが、細い腕が見える。彼女は砂を気にすることなく、そこに座っている。砂を掴むと、

 それを握った手の間から、一本の糸のように元の場所へと落とす。そんな彼女をじっと見ていると、急に彼女は顔をこちらに向けてきた。目が、合ってしまった。その時、彼女の顔がはっきりと見えた。

 今までの僕の人生で、彼女のような顔を見た事があっただろうか。まるでその人は映画の主人公を演じる女優のように美しく、涼しげな眼もとに魅入ってしまいそうになる。彼女は、僕を見ながら立ち上がる。

 服に付いた砂を、細く白く長い指で払う姿は、本当に映画のワンシーンのように見えた。全てを払い終わると、僕の方に身体を向けて歩き出す。

 一つ一つの動きが、スローモーションに見える。その姿を一言で表すならば「可憐」そのものだ。
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