誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
プロローグ
「汝、桐ケ谷 律は、夏川 百花を妻とし、良き時も悪き時も~~~誓いますか?」
「誓います」
荘厳なチャペルに降り注ぐ陽の光、溢れんばかりの花と緑、お祝いの言葉。
女性なら誰もが1度は憧れるであろう結婚式。
その結婚式に、私は新婦として立っている。
「汝、夏川 百花は、桐ケ谷 律を夫とし、良き時も悪き時も~~~誓いますか?」
「誓います」
だけど、思い描いていた結婚式とは程遠い。
「では、誓いのキスを」
キスをされても、何も感じない。
なぜなら、この結婚は不本意だからだ。
* * *
「―――明日の会議は何時から?」
「10時からです」
「9時に変更してくれ。10時には先方に向かいたい」
「承知いたしました」
新郎新婦の控室。
黒のタキシード姿で部下に指示を出した新郎ー律さんは、疲れたように溜息を吐いた。
手にはタブレットを持ったまま、難しい表情をしている。
(こんな時くらい、仕事なんかしなくてもいいのに)
そう思うけど、口出しはしない。
今日から彼の妻になるわけだけど、それはあくまで戸籍上の話。
お飾りの妻の意見など、この人が聞くはずもない。
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