誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
「母のことを覚えててくれたんですね」
「……忘れるわけがない」
「その言葉が聞けてよかったです。母も喜んでいると思います」
本当に……良かったね、お母さん。
2人がどうして別れたのかずっと疑問だったけど、少なくとも嫌いで別れたわけじゃなかったんだね。
亡くなってからも、こうして思い出してくれる人がいて私も嬉しい。
あの頃の記憶が、辛いものじゃなくて良かった。
私にとってもあの頃の思い出は……。
(あれ、ちょっと待って)
お父さんが、あの時の『おじさま』ということは、『シンお兄ちゃん』は?
おじさまの息子で、跡継ぎなんだってよく話していた。
シン、お兄ちゃん。
シンってもしかして、新? ということは……。
「あ、あの」
「そろそろ失礼するよ。あまり遅くなると家内がうるさい」
「え、あっ」
「家内には、君が零の娘であることを知られたくない。別に隠すことでもないが、どう考えても面倒なことにしかならないからね」
「そうですね」
「私も君のことは零の娘ではなく、息子の嫁として接するから、そのつもりでいてくれ」
「分かりました」
確かにお母さんの性格上、私がお父さんの昔の恋人の娘だと知ったら発狂しそう。
だったら、もう昔のことは胸にしまっておいたほうがいい。
そう分かっていても、私の胸は高鳴っていた。