誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
第五章
「―――それでね、律さんったら今まで以上に素っ気なくなるし、帰って来るのも遅いの」
「ふふふ」
「ちょっと、ハナちゃん? 何が可笑しいの?」
「だって、良く言うじゃない。夫婦喧嘩は犬も食わないって」
何よ、茶化しちゃって。
こっちは真剣に話しているのに……と、ハナちゃんをひと睨み。
今日は体調が良いらしく、ベッドの背もたれを起こしているハナちゃんは楽しそうに微笑んでいる。
「百花の話を聞いていると、英二さんのことを思い出すわ」
「英二さんって、おじいちゃんだよね?」
「そうよ。百花が赤ちゃんの時に亡くなったから覚えてないわよね」
「うん、写真でしか知らない。そのおじいちゃんをどうして思い出すの?」
「英二さんも昔で言う色男でね、そりゃぁモテたのよ。女の気配を感じるたびに、どれだけヤキモチを妬いたことか」
「ちょっと待って、私はヤキモチなんて妬いてないよ」
鋭く突っ込んだ私に、ハナちゃんは「はいはい」と笑う。
愚痴りに来たはずが、いつの間にかからかわれていることに若干の苛立ちを感じるけども、ハナちゃんが元気そうなので良しとしよう。
ここのところ……ちょっと痩せてきたのが気になっていたんだ。
看護師さんの話では食欲が落ちているようだし、検査結果もあまり良くなかった。
主治医からは、そろそろ緩和病院へ、という話も出ている。