誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
私の問いかけに、律さんは答えようとせず。
気まずそうに視線を逸らした。
その仕草はもう、答えを聞くより明らかで――――。
昔、まだ母が元気でこの店を切り盛りしていた頃。
『”悪いことをする子は、お仕置き部屋に入れるからね”』
そう言って、母は私やシンお兄ちゃんをお仕置き部屋に閉じ込めた。
だけど、この部屋は私たちにとって”秘密の小部屋”。
狭い部屋の中に、2人で入って内緒話をするのにもってこいの場所だった。
『シンお兄ちゃん大好き、ぎゅっとしてー』
『百花はいつもそれだな』
『だって、安心するんだもん』
『いいよ、おいで』
『シンお兄ちゃん、私ね。大きくなったら……』
あぁ、そうだ。そうだった。
どうして今まで忘れていたんだろう?
心臓の奥が震え、想いは涙となって頬を伝う。
私は泣いていることを隠しもせず、律さんに詰め寄った。
「大きくなったら、結婚してくれるって言いました」
「……しただろ、実際」
「ぎゅってしてください」
「……」
律さんは少し困ったような顔をした。
「安心したいんです」
「……甘えたなのは、昔から変わってないな」