誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします


いつからだろう?
確かに初めは、私にとってもただの契約結婚だった。
人生のピンチで、お金がどうしても必要で、律さんが出した条件に乗った。

結婚した後も、あくまで戸籍上の夫婦ってだけで。
お互いにプライベートを干渉しないってルールだったんだけど……。

心配したり、してくれたり。
頼ったり、助けてくれたり。
支えてくれる律さんの存在が、日増しに大きくなって。


「私、母を亡くしてからずっと1人で頑張ってきて……」

「うん」

「でも、もう1人じゃないんだって思えた瞬間かな。その時くらいから多分好きになってた、と思う」

「そっか、良い事じゃん」


果歩が、にこっと笑う。


「百花には、私もいたけどね。1人じゃなくてさ」

「そうだね、ごめん……ありがとう」

「お礼は5つ星ホテルのフレンチでいいよ、ランチじゃなくてディナーね」

「小料理屋『零』のディナーなら、いつでもどうぞ」

「ケチくさいこと言わないでよー、セレブ妻のくせに」


茶目っ気たっぷりの顔で、果歩が言う。
彼女のそういうところ、好きだな。
嫌味がなくて、遠慮もなくて、だけど、気遣い上手で。
するっと、人の懐の中に滑り込む。

私も果歩のように上手く、律さんの心の中を独占できたらいいのに。


< 89 / 102 >

この作品をシェア

pagetop