Sister Cherry! ~事故った妹は今日も事故る~【シーズン1】

18.改造部位:体~ファッション指南~


【お兄ちゃん改造計画(4/5)】

 ********************

 Tシャツは五枚、定番色の黒に白にグレー、遼太郎は自分ではあまり選ばないだろう黄色と控えめのピンク。プリントの物とロゴのがあり、二枚は長袖、二枚は半袖、グレーの一枚は七分袖というのか半端な袖の長さ。

 他に入っていたのはブルー系のワークシャツと、ネイビーの薄手パーカーだ。


 “桜子色”などと言うものだから、何を着せられるかと思ったが、案外定番というか無難というか……遼太郎は少々拍子抜けする。
「あ、このピンクのが“桜子色”ってこと?」
「何言ってるんです、お兄ちゃん?」
「いや、桜子かなり気合入ってたからビビってたんだけど、案外フツウだなって。俺はあんまり尖ったの買われても困るから、ホッとしてるけど」

 遼太郎がそう言うと、桜子はハアとため息をついた。
「わかってないなあ、お兄ちゃん。オシャレの基本は、まさに”基本を押さえる“こと。お兄ちゃんはその基本ができてないんだから、まずは定番揃えるのが当然でしょ?」
のっけからのダメ出しが、遼太郎に突き刺さる。


 桜子はピンクのTシャツを取って、遼太郎の胸に当てがった。
「お兄ちゃん、この買った服で、何日着回せると思いますか?」
「着回す?」
まずそこからして、遼太郎にはあまりない概念である。

 桜子は床に広げた服をひとつずつ指差して、
「まずTシャツ一枚ずつで5日間いけるでしょ? それにシャツとパーカーをそれぞれ合わせて、プラス10パターン。
 内に着るのがどれでも大丈夫な色を選んだつもりだけど、実際着ると色味が合わないのがあるかもだけど、単純計算それだけで半月毎日違う組み合わせにできるんだよ?」
「な、なるほど……」

「Tシャツは綿混選んだんで、洗濯しても襟とかヘタらないから、ガンガン着回しても大丈夫ですよ」
「視点が主婦だな」

 組み合わせ、という発想もまた遼太郎にはなかったものだ。


 ぽかんとする遼太郎に、今度はブレザーの上からワークシャツをはおらせ、
「これなんかは1枚で使っても、ワイルドな感じでアリですねー。パーカーの方はちょっと下に着ないとですけど……」
そこで桜子はハッとして顔を上げた。
「お兄ちゃんなら素肌にパーカーで、胸元を大きく開いても……」
「ヤだよ。お兄ちゃん、そんなBL本の表紙みたいなカッコ」


 気を取り直して桜子先生が続けることには、
「でもお兄ちゃん。だからって毎日別のTシャツ着ればいいって話じゃないんですよ?」
「ダ、ダメなのか……?」
「ダメですよー。トップスは同じの着てるの気づかれやすいんです。だから、一枚で着る日と組み合わせる日を、ランダムに混ぜてください」
「ランダム……」

「パーカーとか、はおるモノは続けて同じの着ても別におかしくないです。アウターってそういうものですから。逆にアウターを毎日変えると、『あ、二枚で回してるんだ』って思われちゃうんで注意が必要です」


 桜子の力説に、遼太郎はタジタジとなる。
「思われちゃうって、人が何着てようが、そんな見ないだろ」
「見ますよー。女の子は誰がどんな服着てるか、すっごく見るんですから」
「いやいや、どこの女の子が、俺のことを気にするんだよ」
非モテを自認する遼太郎が苦笑した。

 すると桜子はちょっと頬を赤くして、ふいっと目をそらして呟いた。
「……あたしが、するもん……」
その仕草に、遼太郎は少しドキリとさせられた。


 しかし考えてみれば、桜子が「カッコ悪いお兄ちゃんがイヤだ」と言い出して、遼太郎を“改造”しているのだ。そもそもの時点で、“気にする”から始まった話だった。祖語は……

 遼太郎は「兄の“こと”を気にする女子」の話をしている。
 桜子は「兄の“服”を気にする女子」の話をしている。

(お兄ちゃんたら、自意識過剰なアンジャッシュのコント……)

 遼太郎は内心苦笑して、指で鼻の下を擦った。


 兄の“こと”を気にする女子の桜子はコホンと咳払いした。
「話を戻しますとですね、アウターは、特にパーカーの方は前を開くか閉じるかでもかなり印象が変わるので、そういうところも気にしてみてくださいね。要は着回しと着こなしさえ押さえれば、別に難しいことじゃないですよ」
「もはやダサオタクには難易度高過ぎですよ?」
Tシャツ5枚にワークシャツとパーカーで、なぜ組み合わせが無限になるんだ?

 さあ、そろそろキャパもパンクしかかってきた遼太郎を、
「ほら、お兄ちゃん。もうちょっとだから頑張って」
桜子は両手を小さくガッツポーズにして励ました。



 **********

 次なる箱を開いて出てきたのは、ボトムスだった。
「お待ちかね、お兄ちゃんの下半身です」
「いや、言い方」

 濃いベージュのチノパンは、色は定番だが厚みがあって武骨なワークテイスト。カーゴパンツはやや細身で、遼太郎が自分ではまず選ぶことのないオリーブ色だが、意外と落ち着いていい色合いだ。一本は普通のジーンズかと思いきや、ビニール袋から出すと妙に丈が短い。
「半ズボン?」
「七分丈! もうっ、お兄ちゃんは根本的に言うことがダサい。ワザとですか?」


 桜子の視線が険しくなり、遼太郎は首をすくめる。
「しょーがねーだろ……でなきゃ妹に“改造”されないんだし」
「そりゃごもっとも。でね、ボトムスは言うなれば“土台”なんですよ。ぱっとで目に入るのはトップスでも、下が決まってないと文字通り台なしです」
「ボトムス……装甲騎兵?」
「……?」

 遼太郎がボケたが、桜子はきょとんとした。中学生の妹に、さすがに拾うのは無理か。
「もう、何言ってるかわかんないですけど、ちゃんと聞いててください。明日につながる今日くらい」
「拾った?」
さすが、桜子ちゃんはデキる妹。


 桜子は七分丈ジーンズを取り上げて、
「あたしの持論ですけど、色で攻める場合はデザインは抑え目、形が定番の場合は色でちょっと冒険するくらいが調度いいんですよ。
 両方攻めちゃうとそれは奇抜なだけで、上級者向けアイテムだから、下手に手を出すとヤケドするだけです」

 遼太郎を立たせて、膝立ちになって腰に当てた。
「ほら、これくらいだったら、いい感じの抜け感でカワイイ。上が同じでも、ボトムスを変えると、かなり雰囲気違うと思いませんか?」


 桜子が床にTシャツと七分丈、パーカーとシュッとしたカーゴの組み合わせで並べると、なるほど、遼太郎にも言わんとすることが何となくわかった。
「本当は靴も何とかしたかったんですけど、靴は実際履いてみないとだから。あ、七分丈はく時は、ソックスはショートにしてくださいね。駅前で買っといたんで」
「手際良過ぎない……」

 テーブル脇の雑貨屋の袋を指差す桜子に、遼太郎はもう呆れるしかない。


 と、感心しきりの遼太郎に、桜子がすっと寄り添って立つと、
「……失礼しまーす……」
ブレザーの前が開けられたと思ったら、スルッとネクタイが解かれ、ワイシャツのボタンに細い指が掛かる。
「って、何してんの、桜子さん?!」
「え? 一度実際に着てみてもらおうかと……」

 慌てる遼太郎に、桜子はきょとんと首を傾げた。
「ここでかよ! ヤだよ! てか、当たり前のように兄を脱がせようとすんなよ、何かと思ったわ!」
「ナニかと思った……?」
「ヤメなさいって! てか、手を止めろよ!」
ツッコみが追いつかない。既にワイシャツのボタンは全て外され裾を出され、桜子の手はベルトのバックルに伸びようとしている。


「桜子のエッチ!」

 遼太郎は床の服をかき集めると、前を隠すように抱え、リビングを飛び出して階段を駆け上がっていった。
「……あたしもどーかと思うけど、お兄ちゃんもそれはどーかなあ……」
逃げる遼太郎を見送りながら、桜子が呟いた。


< 18 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop