Sister Cherry! ~事故った妹は今日も事故る~【シーズン1】

19.改造完了~遼太郎完全体~


【お兄ちゃん改造計画(5/5)】

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 ツッコみ過多のせいか、別の理由からか、部屋に逃げ込んだ遼太郎は息をゼイゼイさせている。抱えた服をベッドに投げ出し、ついでに自分も投げ出したい気分だ。
(あいつ……無邪気すぎるのが、逆に邪気を発生させやがる……)
まるで殺生石のような妹である。
(でもな……)
ベッドの服の山を見る。兄のためにここまでしてくれる妹も、なかなかいないだろう。

(着替えてみるか……)

 遼太郎は半脱ぎにさせられた制服を、とりあえず自分で脱いだ。


 まず三本のズボンにひと通り足を通してみて、
(へえ……)
遼太郎は感心した。普段から部屋着はジャージ、ファッションは楽ユルを基本とする遼太郎は、カチっとしたボトムスをはくのは苦手だ。

 しかしワークパンツは着て動くことを前提としているからか、太もも回りに余裕があり、しゃがんでみても窮屈感がない。
(あいつ、そこまで考えて、この服に……)
ボトムスのはき心地も、トップスの着回しも、ファッションに疎い遼太郎のことを考えて選ばれている。そんな妹に、お兄ちゃんは不覚にもジーンとしてしまう。

 そこで遼太郎は、一度上下で組み合わせてみることにした。


 下は桜子のイチ押しっぽい七分丈ジーンズ。主張しないピンクのTシャツに、タイト目のパーカーを合わせて、普段は制服がだらしなくないかくらいしか映してみない姿見の前に立ってみると……
「へえ……」
自分で言うのも何だが、驚くほどシュッとしていた。


 下のデザインも、上の色も、自分ではたぶん手に取らない服だが、なかなか悪くない。濃い色の細身パーカーが、全体を上手く引き締めている。
(馬子にも衣装とはよく言ったもんだな……)
 
 自分の良素材を認識していないので、遼太郎は素直に感心しつつ、桜子の言う通り膝に掛かるジーンズにミドルソックスは子どもみたいというか、ちょっと変態テイストなので立ったまま足指で引っ掛けて脱いだ。
(やるなあ、桜子。ちょっとこれで、見せてみるか)
妹が自作の出来栄えにワクワクしてるだろうと思い、ドアを開くと……


「いいじゃん、お兄ちゃん!」
「うわあっ、ビックリした!」


 桜子は既にドアの前に待ち構えていた。
「何でそこにいるんだ?!」
「だって、待ちきれなくって。乱入しなかった桜子を褒めて欲しい」
「それ当たり前のことだから。褒めるとこじゃないから」
遼太郎はそう言うが、こっそりドアを開けて覗かなかったことに、桜子がどれだけの自制心を動員したか。ドアに耳を当てて、“着替える音”は聞いていたが。
「とにかくっ、明るいとこで鑑賞しよーぜー!」
「うわわわ……って、鑑賞?!」
桜子に腕を取られ、再びリビングに連行される。

 うわ、危ねえ危ねえ、階段落ちる、落ちるって。



 **********

 戻ったリビングの真ん中に立たされた遼太郎を、桜子は前から後ろから矯めつ眇めつする。さすがに照れくさく背筋を伸ばしていると、桜子はニッコリして、
「うんうん、いい、いい。お兄ちゃん背があるから、ちゃんとしたカッコするとすっごくキマるよー」
普通の妹らしい感想に、なぜか遼太郎はホッとした。


 そんな遼太郎に桜子はクスっと笑い掛ける。
「慣れない間は、あたしが夜の内に明日着る服を揃えてあげますよ」
「小学生の母ちゃんか。確かに俺はダサいオタクだけど、妹にそこまでされたら、お兄ちゃん人としてダメ過ぎだろー」
遼太郎が冗談めかしてそう言うと、
「そんなことない。お兄ちゃんは、全然ダサくなんかないよ!」
思いがけず、桜子が真剣な声で床に目を伏せた。


 桜子のトーンに面食らった遼太郎は、その肩が震えているのに気づき、ドキッとする。
「桜子……?」
「あのね……お兄ちゃんは記憶のなくなったあたしと仲良くしてくれて、あたしが変なことをしても許してくれて、助けてくれて、すごく素敵なお兄ちゃんなんだよ……?」

 桜子が下を向いたまま鼻をグスッと鳴らした。
「お兄ちゃんは服とか気にしなくても、ホンドはガッゴ悪くなんてない……けど、ざぐらごはお兄ちゃんにいっぱい助けてもらっでるがら、お兄ぢゃんが苦手なことでざぐらごができることだったら、お手伝いしてあげだがったのおおお……」
桜子はそう言って、顔を手で覆った。

「でもお、ガッゴ悪いとかいっぱい言っちゃったあ……そんなこと、ホンドは思ってないのにい……お兄ちゃん、ゴメンなざいい……!」


 そうか……と、遼太郎は泣いている桜子を見ていじらしくなった。このところ急速に兄妹仲が縮まったような気がしていたが、今の桜子には、やっぱり自分は“知らないお兄ちゃん”なんだ。そんな遼太郎と、何とか上手くやろうとして、
(必死になって気を遣ってくれてたんだな……)
それに気づいてやれない自分の方が、不甲斐ない兄のように思えた。

 遼太郎は桜子の髪を、ぽんぽんと撫でた。
「……そうか。桜子はお兄ちゃんのために、頑張ってくれてたんだな」
「お兄ちゃん……」
「嬉しいよ、桜子。それにホラ、お兄ちゃん、自分で言うのも何だけど、こんなにカッコ良くなれたし。桜子のお陰さ、ありがとうな」
遼太郎が優しく言うと、桜子は頬の濡れた顔を上げた。

「お兄ちゃん……」
「何だい、桜子」

「お兄ちゃん、さっきBLとか言ってたよね……?」
「何でこの流れでそれを蒸し返しちゃったかな?」


 桜子は手の甲で涙を拭うと、赤くした目で遼太郎を見つめた。
「お兄ちゃん……BLとか興味ある人なの……?」
「いや、ないないない。お兄ちゃん、ド☆ノーマルだよ?」
「学校に、そういうオトモダチがいるの……?」
友達と言われ、遼太郎の頭にケンタローの顔が浮かび、ゾクッとして打ち消す。

「お兄ちゃんは“攻め”……? それとも“受け”……?」
「お兄ちゃんの”後ろ“は純潔ですよ」

 まあ、残念ながら”前“もまだ純潔(ブラザーチェリー)だがな。

「あたし、男の子に興味あるお兄ちゃん、ヤダなあ……」
「お兄ちゃんもヤだなあ」


 桜子は両手を組んで、恥ずかしげな表情で口元を隠した。
「男の子を相手にするんだったら、妹の方がノーマルだと思いませんか……///」
「そりゃあ思うけど……思わねえわ! 危ねえ!」

 またヤラれた。クスクス笑う桜子を遼太郎は睨み、フッと笑いを漏らした。
「まあ、桜子の言うことにも一理あるか」
「え?」
ポカンとした桜子に、遼太郎はニッと笑っていった。
「いや何、ここずっと、桜子は俺のためにいろいろしてくれたわけじゃないか。こうして服もオシャレになったことだし……」


「観たい映画があるんだよな。折角だからこれ着て観に行こうと思うんだけど、今週の土曜、良かったら一緒に来ないか? 礼と言っちゃ何だが、昼飯くらいなら、お兄ちゃんが好きなもん奢ってやるよ」


 遼太郎は「映画が観たくないやつなら、無理にとは言わないが」などと続けていたが、もはや桜子の耳には入っていなかった。
(え……映画、お出掛け……? お兄ちゃんと、新しい服を着て……?)
それって……それって……


 デートじゃん……! お兄ちゃんとデートじゃん……っ///


 桜子はバッとテーブルに遺った、未開封の通販紙袋を見た。
(あ、あたしの分のオリーブ色のサロペットと、アイボリーのパーカー///)
お兄ちゃんと“ナンチャッテお揃い”になるかなあと、サロペットはお兄ちゃんのカーゴと色を合わせ、パーカーに至ってはレディースの色違い……

 “色”で攻める場合はデザインは抑え目、形が定番の場合は色でちょっと冒険する”を図らずも実践している。

(“お揃いの服”を着てお兄ちゃんとデート……お揃いで……)

 桜子は頭の中もグルグル、目もグルグルで……


「聞いてる? どうする、やっぱお兄ちゃんとお出掛けは恥ずかしいか?」
「行くっ! ゼッタイ行くっ!」


 叫んだ直後、立ち眩みを起こして床に手をついた。
「桜子っ?!」
慌てた遼太郎に、手を伸ばして開いた段ボール箱を引き寄せ、桜子は、
「お兄ちゃん……桜子、どのパンツはいてったらいいかなあ……?」
「ファッション初心者に、質問上級過ぎない?」


 嬉し過ぎて、ちょっとバカになっていた。


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