王子なドクターに恋をしたら
ゆっくりお風呂に入らせてもらってリビングに戻ると和泉くんの姿が見えない。
広いリビングにぽつんと一人いるのがなんだか寂しくて探そうと思ったら、ひとつドアが開いてるのに気付いた。
そっと覗いてみたらそこは書斎のようで、本棚に並んだ難しそうな医学書が見え、その手前のデスクに座ってる和泉くんの背中にそっと声を掛けた。

「和泉くん?」

「ああ、ちゆ。ゆっくりできた?」

振り返った和泉くんは英文の書類みたいのを見てたみたいで、それをデスクに置いておいでとあたしを呼んだ。
側によるとあたしの手を引いて自分の膝に座らせると後ろから抱きしめられた。

「ホカホカだね、ちゆ」

首筋に顔を埋めた和泉くんの唇が微かに肌に触れて、お風呂上りの火照った体がますます熱くなった気がする。
甘えたようにすりすりとされると頬に栗色の髪が触れてくすぐったい。

「いずみ…くん…」

甘い雰囲気に呑まれそうになっているとふいっと離れた和泉くんは立ち上がり僕も入って来るよとあっさりと行ってしまった。

期待してしまったあたしは拍子抜けしてしまって、あれ?と、思った。
いつもなら、我慢できないなんて言ってあたしをベッドに連れ込むのにどうしたというのだろう。

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