王子なドクターに恋をしたら
それが幻想だと気付いたのは指導医の黒崎さんの勧めでアメリカ研修が決まった時。
僕の叔父は外科医の権威として有名で人間としても尊敬していた。
母が病に倒れた時、叔父に医者になれと言われなかったら僕は今医者になどなれてなかった。
少しでも目標としてる叔父に近付けるように腕を磨くための研修に僕はやる気を漲らせていた。



「頑張ってね和泉。私、待ってるから」

「え?」

彼女の言葉に心底驚いた顔をすると怪訝な顔をされた

「え?って何?遠距離恋愛になるけど私1年でも2年でも和泉のこと待ってるって言ってるんだけど?」

紘子さんと付き合っているという自覚はあった。
けど、僕は仕事の事で頭がいっぱいで彼女のことなどこれっぽっちも考えていなかった。
その上待っていると言われて煩わしいと思ってしまったんだ。
好きだと思っていたのに簡単に切り捨ててしまえるほど僕は彼女に愛情がなかった。


「あ…いや、いつ帰って来れるかわからないし、その間紘子さんを縛り付けておくことなんて出来ないよ…」

「和泉…何言ってるの?私、これからもずっと和泉と一緒に居たいの。私との将来を考えてくれてなかったの?」

「ごめん…紘子さんの望む将来を僕は叶えてあげられない」

「和泉…」

紘子さんはきっと結婚も考えてただろう、絶句する彼女に掛ける優しい言葉なんてなかった。
期待させておいてこの裏切り、薄情と思われてもこれが本来の僕だった。
僕には本気の恋愛なんて出来ないんだと痛感した。

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