王子なドクターに恋をしたら
僕の独りよがりの考えは、やっぱり千雪を傷つけた。
何かと理由を付けて千雪の誕生日でさえ逢いに行かなかった。
千雪の元気を装う電話の声に罪悪感が沸いて気の利いたことも言えない。
ごめん、逢いたいんだよ本当は…。
千雪の事となると僕はやっぱり我慢が効かない。すぐに自分の決心が揺らぐ。
黒崎さんに言われた通り論文は書き終えて提出済みだ、もういいだろう。
自分の答えはまだ出ていないけど、逢いたさが募り一目だけでも…と思えば邪魔が入る。

「和泉、俺のいない間叶を頼む」

「妻の妊娠中に長期出張か。そりゃあ弟としても医者としても傍で見てやんないといけないよなあ。田舎に行ってる暇はないぞ。しっかり見てやれよ」

こんな時に出張するなよと文句を言っても有無も言わせず身重の叶ちゃんを押し付ける兄さんに後で高くつくぞと言われたことを思い出した。
そして兄さんの話しに乗る黒崎さんのしたり顔。
顔見知り程度の二人はいつの間に結託してたんだ?と思わずにいられない。

むしゃくしゃして仲間の集まるラウンジで酒を煽ってると、仲間の一人に「珍しく荒れてるようだな、何かあったのか?」と聞かれてつい口が滑った。

「なあ、結婚ってなんでするんだ?」

「は!?どうした高槻!結婚するのか!?」

「まさか!本気の彼女がいるのか!?誰だそれ?」

随分驚かれてこちらが面喰う。
他の仲間も興味津々で僕の話を聞き出そうと躍起になった。
根掘り葉掘り聞かれてムッとした。

「結婚したいんじゃなくて、なぜ結婚するのか聞きたいだけだよ。なぜそんなに驚くのさ」

「それを聞きたがること自体お前らしくないだろ」

そう…かもしれない。
周りが結婚して幸せそうな姿を見ても僕に結婚という概念がなかった。
だから、紘子さんにそれを匂わされて僕は逃げたぐらいだ。
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