王子なドクターに恋をしたら
痛みで流れた涙を拭われ抱きしめられる温もりにふっと力を抜いた。
少しひりひりするけれどしっかりと和泉くんを感じる。
身も心も一つになれたんだと思うと嬉しくてやっぱり涙が零れた。
その目尻にキスをした和泉くんが愛しそうに目を細めあたしを見おろす。

「好きだよ千雪、愛しくてたまんない」

「あぁ、あたしも、和泉くん…」

一つになった身体からふつふつと沸きあがるのは愛しさと幸福感。
胸がいっぱいでこの溢れる思いをどう解放していいかわからない。
その方法を知ってる和泉くんはあたしの身体に刻み込むようにゆっくり動き出した。
痛みはいつの間にか快感に変わり、和泉くんは激しい情熱をあたしの中に注いでいく。
我慢していても否応なく嬌声が上がり和泉くんの荒い息遣いと呼応した。

愛し合うことがこんなに情熱的で幸せだったなんて知らなかった。
いつも冷静な和泉くんの悩ましげな表情は官能的であたしは夢中で溺れていった。

淫らで幸せな行為は明日別れがあるなんて知らないようにお互いを求めいつまでも絡み合う。


……

このまま

時が止まってくれたらいいのに。

明日なんて来なければいいのに。

そんなあたしたちの願いはどこに届くわけも無く、そして、別れはやってくる。


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