お見合いは未経験
「へぇ?」
他人事のようだ。
「で、取り回しのところを私に、と依頼がありまして。」

「無理すんなよ。」
お通しのおひたしを食べながら、葵に炯はさらりと伝える。
こういうところが、本当に好きだなぁと葵は嬉しくなってしまった。
炯の葵を思いやる、自然な優しさ。

「はい。」    
「あと、オレへの依頼とか、絶対受けなくていいからな。それは、会社を通せと言えよ。」

「あ、はい。」
炯が、新たな仕事をスタートさせる時も、今回、セミナーの講師をやる件も、葵は聞いていたが、炯に最初に言われたのがそれだった。

家族だから、と葵を利用するような事は絶対に許さない、と言っていて、そのルールを破れば今後取引しない、とまで公言したらしい。

守られてるなぁ、と葵は思う。

今はお客様のために、新しい法人を立ち上げる手伝いをしてる、などと近況を聞きながら、葵は、まだまだ、炯の忙しい日は続きそうだと考えていたところで、炯の携帯が鳴った。
「あ、忍ちゃんだ。わり、ちょっと出てくる。」
炯が電話のため、席を外した。

え?し…忍ちゃん?
忍ちゃんて誰ですか?炯さーん…?
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