お見合いは未経験
「寺崎、忍さん…」
「はい。成嶋葵さんですね。本日はよろしくお願い致します。」

面白い…。疑問に思わないんだろうか。
同じ苗字だぞ。

「よろしくお願いします…。」
葵がそう、挨拶した後、すみません、私化粧室に失礼します、と席を外す。
葵らしからぬ、雰囲気だ。

「え、マジ?ちょ、榊原、ここ頼むわ。」
慌てて、成嶋が葵の後を追いかけていった。

「何か、あったんでしょうか…」
「あったんだろうな。」
貴志もそうとしか、答えようがない。

「では、会場を見せて頂けますか?」
そこに淡々と響く寺崎の声だ。
動揺は見られない。

この落ち着きを柳田にも分けてやりたい。

そして、寺崎くん、少しは動揺しないのか。
上司が同姓の女性を追いかけて出て行ってしまったんだが。
「柳田くん、案内してあげて。」
「はい。」

正反対の2人だ。子供を見守る親のような気持ちになってしまうのは、なぜだろうか。

20分程して、満足気な成嶋と顔を真っ赤にした葵が戻ってきて、貴志に頭を下げた。

「あの…お騒がせしました。」
「ごめんな、榊原。こいつ、何か誤解してたみたいで。」
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