お見合いは未経験
「いや。」
榊原は指で眼鏡を直す。
「寺崎くんと、柳田に設営をお願いしてるところです。」
「ああ、寺崎なら大丈夫だよ。一通りの準備は出来ると思うがな。多分。」

今回のセミナーは、いつも会議室として使っているところを、セミナー会場として使うので、さほど、準備はかからないはずだが、やはり、事前準備は必要だ。

成嶋もそれを見越して、万が一のために早めに来てくれたのだろう、と思う。
まあ、先程の20分は別として。
設営の準備の確認のために、みんなで会議室に移動する。

その際、成嶋がぼそぼそと、葵に聞こえないよう貴志に声をひそめてきた。
「先に言うけど、20分では無理だからな。」
「何のことでしょうか。」
「目が疑ってんだよ。」
「疑ってません。」

「オレはしたかったんだけど、葵が絶対ダメって。」
「それは、葵さんが正しいです。」
てか、他人の支店でナニしようとしたんだ?!

「あいつ、結構何でも我慢しちゃうんだな。知ってたけど。」
「ああ、そうですね。」

でも、成嶋自身はどこまで気付いていたか、分からないが、少なくとも同じ支店で働いていた時、葵は相当成嶋を頼りにしていたと思う。

今、東川がいるとはいえ、ひとりで仕事をしていくのは、寄る辺なく不安な気持ちもあるのではないだろうか。
確かに、葵はそんな気持ちも我慢してしまうタイプだ。
< 90 / 190 >

この作品をシェア

pagetop