お見合いは未経験
「支社長が、仲人するなら自分だとか言って。」
先方の信託の支店長と争うようにこちらの支店長が発言をする。
誰もそんなこと言っていない。
それに自分を肴にマウントの取り合いをされるのは、不本意だ。

「婚約が決まったのは、つい先日です。」
こういう話は隠されると暴きたくなるが、堂々とされると、白けるものだと分かっている。
なので、貴志は堂々と答えた。

先程、真奈の指に婚約指輪が光っていたのをしっかり見たし。

「うちでも、誰が射止めるかと思っていたけどね。まさか、こちらの次長とは...。」
それには『お嬢様、である真奈のお相手が商銀の次長とはいえ、サラリーマンとは…』というような揶揄の含まれた話し方だった。

「あ、いや、榊原くんは...」
どうにも噂好きの支店長がそれに反論しようとする。

ストップだ!

実家が『榊原トラスト』で、兄がそこのCEOだというのは、今この場では関係ないし、言ってほしくない。
「支店長、恐れ入りますが準備があるので、失礼させていただいてよろしいですか?そちらのお2人はどうされますか?」

貴志は、並んで座っている2人の営業社員に笑顔を向けた。
「お手伝いします!」

担当者がそう言うと、もう1人の柏木とか言うやつもしぶしぶ席を立った。
なんだ、こいつ...。
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