【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
結婚式はTOKAIヒルズの屋上庭園、披露宴は隣接のオフィスビルにあるVIPラウンジで行われることになった。

 隠岐家の本家である渡会家が『祝儀がわりに』と、お膳立てしてくれたのだそう。

 企業家には垂涎ものの申し出らしいのだが、護孝さんはじめ、隠岐家の方々は不満げだった。
 本当は隠岐家が経営しているエスタークホテルで行う予定だったらしい。

 ……隠岐家が異議を申し出る前に『若い二人には思うところはあるだろうが』と本家の当主である大叔父様から頭を下げられてしまったそう。 

『すまない、つまらないしがらみに巻きこんでしまった』

 護孝さんに頭を下げられてしまった。

『大叔父は俺を孫同様に可愛がってくれるから、親族の節介をシャットアウトしづらかったのだろう』

 私は勿論百万ドルの笑顔で頭を横に振った。

『あの庭で護孝さんと出会ったし、プロポーズもされたし』

『……初夜を、庭園の中の茶室でとも思ったんだけどね』

『え?』
『なんでもない』

 ……私がまとっている白打掛は渡会の大叔父様が誂えてくださったのだとか。
 柄として隠岐の家紋と三ツ森の家紋のみが織り込まれているのは、『これ以上の口出しはしない』という線引きなのだと護孝さんが教えてくれた。

 TOKAIヒルズガーデンに敷かれた緋毛氈のうえをお父さんに手をとられて、神主さんと護孝さんが待つ祭壇へと向かう。

 黒羽二重、染め抜き五つ紋付きの長着と羽織に仙台平の袴をつけた護孝さんは、普段横に流している
髪をオールバックにしていて、ストイックなまでの凛々しさだ。

 思いっきり見惚れて、手と足が一緒に出そうになった。

 ……祭壇は再会したクロマツの前に設けられており、爽やかな緑に包まれて祝詞を読み上げる。

 三三九度の杯を干しているとき、雲に隠れていた太陽が姿を現し、私達二人に温かい光を浴びせた。

 良い兆しだと列席された方達から口々に言われたので、素直に嬉しい。

 滞りなく式が終わると、今度は食事会へと移動する。
 『花嫁道中』を見るために、隣接しているオフィスビル・レジデンスから庭園を望める窓には人々が鈴なりだった。
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