【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 ……なんだかんだして。

(『私達、なんだかんだが多くありませんか?』
『ひかるがなにを指しているかわからないが、夫婦だし、相思相愛なんだ。コミュニケーションはもっと、多くていいんじゃないか?』
という会話があったことは割愛)

「今日はジンジャーガーデン行ってみよう」

 なんでも世界の熱帯地方に分布する、一〇〇〇種類以上を集めたらしい。

 護孝さんに聞かされて、目がまん丸くなった。

「……ジンジャーって生姜だよね? 熱帯地方だけで、そんなにあるってこと?」 

「だな。元は一種類だったのかもしれないが、気候や土壌に合わせて独自の進化を遂げたんだろうな」

 しばし二人で進化論について真剣に語り合い。広い庭園のなか、目指す場所に着いた。

「うわー、鮮やか!」

 とりどりな植物に目が丸くなる。
 ワクワク度MAXだー!

「ひかる!」
「……護孝さん?」

 既にダッシュしかけていたら微笑みかけられた。

「外出時は俺と手を繋ぐこと」
「……ハイ……」

 言われたそばからやらかしてしまった。

「独特の形だな」

 二人でゆっくり歩きながら垂れ下がっている実や木々のあいまから伸びている枝に目をとめる。
 気候のせいか、そこかしこに美しい色の花が咲いている。

「花が咲くなんて思わなかった」
「俺も」

 つい、一本一本葉や幹に触れては、土を調べた。画像につける説明を詳しく書きこんでいく。

「タイムアップ」

 護孝さんの声で、私はハッと顔をあげた。
 気がつけばジリジリと太陽が照り付けていた。
 UV対策をしていても、心なしか肌がぴりぴりする。

 彼もうっすらと汗ばんでいる。これ以上は熱中症の危険もある。夫の言う通りだった。

「涼しいところに行こう」

 連れていかれたのはガーデン内のレストランだった。店の名前らしい文字を拾っていく。

「ハリア……?」
「マレー語で『ショウガ』って意味らしい」

 メニューを渡されたが英語だった。

「ここは料理にジンジャーを使ってるらしくてね。ジンジャーハニージュースが有名らしいよ」

 他にも、シンガポールローカルと西洋を融合させた料理を楽しめるらしい。
 舌鼓を打ちつつ、私は疑問をぶつけることにした。

「護孝さんて何ヶ国語くらい話せるの?」
「公用語くらいは」
「……と、いいますと?」

 おそるおそる聞けば、黒い笑みを浮かべられた。

「プラス一回な」

 なにが、と聞き返しそうになったが、瞬間、夜のことを思い出した。

 甘く激しく蕩かされて。
 護孝さんが欲情まみれの顔になるのが嬉しい。
 どこまでも一つになれて、堕ちていく。
 私。
 いつのまにか、護孝さんとの夜を待ち望んでいた。
 抱かれるのを期待して、体が熱くなる。
 ほっぺを思いっきり叩いた。
 ぱんっ!

「ひかる?」
「うん、これは生姜のせいだからっ」 

 そういうことにしちゃおう!

 くっくっく。
 護孝さんが体を震わせている。

 目尻に溜まった涙を掬いながら、色っぽくみつめてくる。ほとんど、息だけでささやかれた。

「素直に堕ちてくればいいのに」
「さっ! しっかり食べるよー!」

 ……誤魔化そうとしている私に、あえて突っ込みせずに、護孝さんはさりげなく続けてくれた。

「読み書き問題ないのは中国語、英語、スペイン語、ロシア語。フランス語もかな」

 びっくり。

「日本語を加えると、六か国語も?」
「ドイツ語は少し苦手だな。今はアラビア語を勉強中……どうした?」

 あんぐりと口を開けたままになってしまう。

「私の旦那様がスーパー過ぎる件……」

 呆然と呟いたら手をとられ、唇を寄せて獰猛に宣告されてしまう。

「こんなもんじゃない。俺の大好きな奥さんを一生惚れさせないといけないからね」

 ふぎゃあ!
 旦那様がセクシー過ぎる件!

「も、もう好きだもの」
「足りない。もっとだよ、ひかる」

 ……だめだ。

 彼の瞳が獲物を捕まえた、みたいな光り方をすると、私は『ドウゾ食ベテクダサイ』ってなってしまう。
 無言になった護孝さんに腰を抱かれてタクシーに乗り込む。

 行き先は私達が泊まっているホテル。じゃない、ベッドだった。 

 ――ガーデンの後に予約していたスパは、夜に変更されたのだった。
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