【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 五日目は薬に使われる植物を集めたヒーリングガーデン、六日目はエボリューション・ガーデン。

 どちらも大喜びで写真を撮り、メモを書きこんではスタッフを見つけて質問しまくったのだった。
 護孝さんはしっかりと私の腰を抱いて通訳してくれている。

「あの。迷子になったりしないから、離れていいよ?」
「そうだな」

 提案したらますます密着されてしまった。

「ひかるが俺をおいて、どこかに行かないよう、しっかりと捕まえてないとな」

 ふ、と艶な笑みを向けられた。
 ……私。
 熱中症より別の病にかかりそう。お医者様でも治せぬ不知の病とか。

 午後は四日目同様『世界最高峰のスパを、出来ればウチのホテルに持ち込みたい』との護孝さんの希望もあって二人でスパを堪能する。

 厳しい修行を重ねた一流の施術師による手技を施された、私の肌や髪は名前の通り光るようだった。
 
 夜は、私を愛おしそうに見つめながら護孝さんが抱き寄せる。
 終わればまた、乞い。
 お互いの熱を分け合う、甘い時間を過ごした。

 七日目、顔見知りになったメイドと別れのハグを交わして、二人は機内の人となった。

「ああ……」

 ゆったりとシートをリクライニングさせた私の手を護孝さんが握ってきた。

「楽しかったか?」

 私はシートの背につけていた体を起こした。

「とっても!」

 あんなゴージャスで楽しいこと、もう味わえないんさぞゃないだろうか。

「あ」
「ん?」

 私は楽しかったけれど、護孝さんはどうだったのだろう。
 後半なんて植物園しか行ってない。

「奥さんのはしゃぐ顔をみれたから楽しかったよ」

 もー、また甘やかす。

「ひかるは緑と接してると本当に生き生きとしていた。植物園のスタッフも君と話して有意義そうだったよ」

 でも、護孝さんのホテルの視察が。

「出張はそうだけどね、今回はホテルとひかるを味わうことだから、目的は達成したよ」

 護孝さん曰く「泊まることが目的のホテル」と「どこかへ行って戻ってくる拠点になるホテル」は違うのだという。

「泊まるほうは文字通り、ホテルを楽しみつくす。一方は旅人が荷物を下ろして眠れる場所」

 なるほど。

「俺が目指すのは泊まるのが楽しみなホテル」

 泊まることがステイタスなのではなく、泊まること自体がアトラクションであるような、と。

「隠岐の杜庭園ホテルはアトラクションにする」

 私が手がけた庭も泊まった人を癒やして、泊まる目的の一つにしてくれたらいいな。

「そんなわけで、あのホテルを堪能したけどまだ足りないんだ」

 くい、と護孝さんが私のあごをもちあけだ。

「一生食べても飢えているのかもしれない」

 私も、この人を好きになるほど、抱き合うほど恋しくなる。欲しくてたまらない。

「私、護孝さんに一生求めてほしい」
「もちろん」
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