【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
  エレベーターの中でも、男性は私の手を握ったまま。

 私は彼の手を見つけながら、ぼんやりと考える。
 どうして、この人はこんなにも強引なんだろう。

 結婚は恋愛。
 要は伴侶となるべきな二人が相思相愛のすえに結ばれるもの。
 ゆえに見合い、とくに政略結婚は双方イヤイヤというのが私の認識だった。

 男性の、相手への執着が窺える表情は新鮮にすら思える。
 この人は玲奈ちゃんだと思っていたから見合いをしたんだ。

 なのに彼女じゃなかったから怒っている。
 罰に私と結婚しようと言い出すくらいに、とても。

  ……この人は玲奈ちゃんが好きなんだ。
 なんでだか、ずきりと胸が痛くなる。

 従妹は頭も良く、美人だ。
 性格もよくて、周囲から愛される。
 ……私とは違う。

 三ツ森ひかるではなく、父や多賀見の付属物としか見てもらえない私とは。
 目が熱くて視界が滲む。

 俯いていた事に気がついたのは、彼に顔を強引に上げさせられてからだった。
 瞳を覗き込まれて、隠岐さんが肉薄していることに狼狽えてしまう。

「なにを泣く」
「泣いてなんか」
「じゃあ、これはなんだ」

 彼の指が信じられないくらい、優しく私のまつげから雫をすくいとる。

 彼は私から目を、離さない。
 私は逃げたくても逃げられない。

「今日。縁談を断るつもりだったが、貴女を見て気が変わった」

 低く、感情を無理矢理封じ込めようとしてるのに、おさえきれていない。
 うごめく情動を感じさせる声。

「貴女が誰だろうと関係ない、多賀見の娘として俺と結婚してもらう」

 逃さない。
 そんな副音声が男の双眸から聞こえてきた。
 呑まれそうになる。

「いきなり結婚なんて無理です!」

 シンデレラだって、王子様とダンスする時間があった。それなのに。

「問題ない」

 出会って一時間もせずに結納の相談なんてアリなの? 
 問題だらけだよ!
< 28 / 125 >

この作品をシェア

pagetop