【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「貴方はオファーをして、彼女の了承を得たのだろうか。ひかるが不承であるならば、多賀見としては縁談を進める必要はない」

 伯父様の穏やかな、しかし持ちかけたのが多賀見だとしたらかなり傲慢な台詞に、なぜか強気だった隠岐さんの表情が歪む。

「俺は……っ、」

 動揺しているらしい。頑張れ、隠岐さん。
 ん? 
 なんで私、彼を応援してるんだ。
 立場が逆転したらしく、伯父様は強気で言いきった。

「ひかるは我が家にとって大事な女性だ。多賀見の名前がほしいだけの男に、やるわけにはいかない」

「痛っ」

 伯父様が宣言された瞬間、さっきより強く握り直された。
 隠岐さんの手は震えていた。……どうして?

「隠岐は多賀見を取り込むつもりはない。俺はひかるがプロジェクトに参加しなくても彼女が欲しい。多賀見さん、お願いします! 彼女との結婚をご了承ください!」

 ガラリと態度を変えた隠岐さんが頭を下げた。
 私はおろおろと、こんな立派な男性が頭を下げるのをただ見ているしかできず。

「隠岐さんがそういう気持ちなら、多賀見としてはやぶさかではありません」

 伯父様がにっこりと微笑む。

 ……私以外の人達の間になごやかな空気が漂い始めたけれど、ここで聞かないと一生後悔する。
 私は、おずおずと手を挙げた。

「あのう。私にはなんのことだか、さっぱり……」

 限りなく当事者っぽいのに私だけ置き去り。
 いいかげん、誰か説明してほしい。

 状況を把握していない私を二人が見て、それから伯父様と隠岐さんで目を見交わしてる。
 伯父様の顔がますますいい笑顔になる。
 この顔知ってる、挑戦をそそのかすときの表情だ。

「そうだな。隠岐さん、まずは私の家に通って、ひかるを口説き落としてごらんなさい」

 対する隠岐さんも好戦的な笑みを浮かべている。

「そうさせて頂きます」

 口説くってどういうことー?!
 ……ええと。私の気持ちは無視ですか?
< 30 / 125 >

この作品をシェア

pagetop