【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
『太陽には隠せるが、月には隠せない』
 そんな言葉を聞いたことがあるような。

 護孝さんは月に誘われたせいか、なおも心情を吐露してくる。

「怖がらせたくない、大事にしたいだけなんだ。誰でもない、俺がひかるを幸せにしたい。……ひかるに、俺のいつも目の届くところにいて欲しいし、傍にいれば触れたい。抱きしめて、腕の中に閉じ込めておきたい」

 狂おしいまでの情熱を感じさせる声。
 私といることで、この人は穏やかになれるのだろうか。
 それとも。
 もっと燃えあがってしまうのだろうか。

「夜、ひかるの隣で眠って。朝、傍らに在るひかるの気配を感じながら起きたい」

 逃げ出さず腕の中に囲われたままの私に安心して、護孝さんはささやき続ける。

「ひかるが俺に愛されてるって自信がもてるようになるまで。ひかるが俺を愛してるって自覚するまで。……一生、傍にいさせてくれ」

 彼は自分のプロジェクトに私が欲しいだけで。
 私なんて護孝さんが本気を出してしまえば、あっけないほどにチョロいのだろう。

 流されてるのかもしれないと思いつつも、私はこくんとうなずく。

 自分が信じられないし、未来なんてわからない。

 けれど、護孝さんの気持ちは心に入ってきた。
 私の大事なところに落ち着いている。

 護孝さんが私のあごをそっと上向かせる。
 なにが来るかわかっていたけれど、目を閉じた。


 ふと目を開く。
 月に照らされた二人の影は溶け合って、離れようとはしなかった。
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