【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 犯人は警察が来るまで、大声で叫んでいたそうだ。逮捕されるまでの一部始終が動画で撮影され、既に配信されてしまっているという。

 手際が良すぎる。あらかじめ撮影スポットも打ち合わせ済みなのだろう。

「くそっ!」

 隠岐家も多賀見家も人の恨みを買うような家ではない。

 ひかるの父、三ツ森氏も豪放磊落で政財界にファンを多く持ち、弟子に慕われている。
 ましてや、ひかるは人を思いやれる女性なので恨まれているとは信じられない。

 だが。

「叔父め、やってくれる……!」

 黒幕が誰か、確信していた。

 奴なら多少の目端もきく。
 金の出どころが不明だが、祖母所有の美術品でも売却したか。
 金を作れば、奴は好きなことができる。

 慎吾が渋い顔になった。

「多分な。だが、まずいことになった」
「……ああ」

 事実が大事なのではない、メディアによって操作されたネガティブな感情が問題なのだ。

「隠岐家及び、ひかる嬢を知らない一般市民は今回の件を面白おかしく騒ぎ立てるだろう」

 既にゴシップ誌数誌から取材の申し込みが入ってきているという。

「広報チームに連絡。至急、ポジティブキャンペーンを張れ」

 俺は低い声で慎吾に指示する。

「チームから『正義は我にあり』の方向で拡散すると報告を受けた」 

 慎吾は持っているタブレットを確認することなく即答で答えた。

「当面はそれでいい。株価の動きに、柔軟に対応しろ。パーティは中止」

「引き出物は問題ない。ハイヤーの到着時間を早めた」

 慎吾がちらりと、ホテル側のスタッフにアイコンタクトを送る。
 スタッフがインカムでホールのスタッフへ、司会に閉会させるよう連携する。

「それと」

 ここからが最重要事項。

「三家の警護を強化しろ。ひかるの周囲を特にだ。どうせ裏で糸を引いているのは叔父だ、探し出してつれてこい。それと、ひかるに恨みを持つ人物を洗いだせ」

「了解」

 俺も慎吾も身内への攻撃へは苛烈に反撃するタイプだ。
 慎吾は怒るほど、冷酷で艶やかな笑みを浮かべる。
 おそらくは俺も似たような表情をしていることだろう。

「俺は会場に戻って、事件があったことを告げる」

 だが手遅れだった。

「っ、」

 会場はすでに嫌な雰囲気に変貌しており、ひかるを中心に悪意の輪が広がっていた。
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