【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 火事の被害が甚大な場所は、入り口から近い一角。
 ここに記念植樹を受け付けるコーナーを作ることを、ひからるから提案された。

「苗木で受け付けて、期間は枯れるまで」

 この地域でよく見かける樹木で、緩やかに育つ種類を選ぶという。
 なるほど。
 急激に育つと植えたほうは楽しいが、庭の番人としては思惑が崩れるのだろう。 

「植生のバランスを崩さないよう、募集期ごとに種類を変えるつもり」

 ある程度大きくなれば、杜の奥まった場所に移すという。
 そうなれば、第二期、第三期の募集もかけられる。
 うまいな。
 ひかるは庭園だけではなく、収支についてもバランスがいい。
 俺はひそかに感嘆した。

 このプロジェクトは私的な感情が絡んでいるから、外部に寄付や協賛を頼んでいない。
 こんな形の耳目の集め方もあるのだ。

「結婚記念日や、子供が生まれたお祝いにお金を出してもらってプレートをつけた苗木を植えるの。そうすれば、その人達はこの庭を自分達の親戚みたいに思えるかな、て」

「いいね」

 気がかりそうな眼差しだったひかるに優しく微笑みかけてやり、彼女の唇すれすれの場所に口づけた。

 空想する。
 自分の木が植わっているこの庭に、想いを馳せるところを。

 花が咲いては見に来ようと想い、嵐がくれば心配するだろう。
 人の想いや目を利用して杜を守っていく。

「早速木に取り付けるプレートを発注して、第一期の募集をしよう。そうだ、俺達も応募しようか」

「うん」

 記念日ごとに植えるのもいい。
 俺の木、ひかるの木、子供達のために植えた木がやがて祖母の庭を守るように育っていく。

 言っておかねば。

「俺といることで今後もひかるを傷つけるかもしれない」

 彼女を抱きしめる腕に力を込める。

「俺は貴女を手放せない。だから、ひかるを守らせてくれ」

 せめて、どうか。

「いいよ」

 小さな許しが与えられた。
 
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