罪か、それとも愛か

『医者の妻』になる。

その言葉は琴羽をひどく落胆させた。
なんとなくわかってはいた。それでも冬輝は愛紗に愛されていると信じたかった。

ーー二人が抱いていた感情が『愛』じゃなければ、私が抱いていた『罪』はどうなるのだろう。

「愛紗ちゃんは、『医者の妻』になりたいの?冬輝の妻じゃなくて?
好きなんだよね、冬輝のこと」

すでに答えはわかっていたけれど、愛紗がどう反応するか知りたかった。

「愛だの恋だのでお腹は膨れないのよ。
あなたには一生わからないわね、お金がない辛さは。
私の父は働くことが大嫌いなクズ男。お金があると賭け事でお金を増やそうとして全て使い果たすの。母親が昼夜問わず働いてギリギリ家計を支えてた。
兄は高校中退してろくに仕事もせずに遊んでばかり。
私は貧乏の連鎖を断ち切りたくて奨学金で大学に通うことにしたの。でも、お金足りなくて。色んなバイトをして、ここにたどり着いたってわけ。
でも、キャバ嬢より、医者の妻のほうがずっといい。世間の目も全然違うし、お金の苦労と無縁だし」

一気に身の上話をまくしたてた愛紗は、口角を上げ笑みを浮かべている。
その目には狂気が見え隠れしていた。

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