氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 ラウファルは愛した女性や娘、孫を守ってもらった三笠家に感謝していて、ビジネスでも三笠ホールディングスへの協力を惜しまない。

 5年前のベリーヒルズビレッジ開業の際もラウファルの采配で国から莫大な資金を三笠側に投入し、日本有数の洗練された複合商業施設の開業が実現したのだ。
  
 ラウファルは可愛い日本の孫にもそろそろ嫁を……と思っていた所で、海斗に浮いた話があるという情報を入手(おそらく出所は源一郎だろう)すると、すぐにプライベートジェットを飛ばして来日した上、何食わぬ顔で、噂の相手の綾がつとめる店に偵察に行ったのだ。
 
「アーヤはどことなく百合子に似ていてね。すぐに気に入ってしまったよ。百合子は私と初めて会った時、外国人の私に、緊張しながら何とかコミュニケーションを取ろうと一生懸命だったが、アーヤも緊張しながら慣れない英語で空回りする姿がとても愛らしかった」

「空回り……」

 確かに初めてラウファルに接客した時、しどろもどろになった記憶があるが、なぜかそれが綾に好感を持ってくれる切っ掛けだったらしい。
 
「海斗、お前は自分の生まれや素性を話してアーヤに逃げられるのが怖かったのだろう」

「……」

 図星を突かれたように、グッと押し黙る海斗。

「アーヤ、ヘタレの海斗が気に入らないのなら、やっぱり私の国に来るかい?」

「変な事を言い出すのはやめてください。それに、アーヤなどと馴れ馴れしく呼ばないでいただけますか」
 
「何を言う。私はアーヤとコーヒーショップでランチする仲だ。しかも『ピーチフローズン』を奢ってもらったんだ。羨ましいだろう」
 
「――そのような軽々しい行動をされますと、SP達が警備体制の立て直しに苦慮しますのでお控えになった方が良いのではないですか?」

 祖父と孫の舌戦がおかしな方向に行きかけるのを唖然と見守りながら綾は頭の中を必死で整理する。
 
(海斗さんは三笠の会長さんの孫では無かった……けど、ファルさんの孫で、ファルさんはアラブの王族で……?)
 逆にスケールが大きい話になって来ている気がしてならない。
 
 でも、綾はどうしても聞いてしまいたいことがあった。
 
「――海斗さんは、結婚するのに、メリットが無い相手だと意味が無いって言ってましたよね」
 
 自分は、彼の傍にいて良いのだろうか。

「何だと、海斗、アーヤにそんなことを言ったのか」
< 64 / 72 >

この作品をシェア

pagetop