氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 手強いな、と笑った海斗は再び綾を抱き上げ横抱きにする。

「もう、観念して受け入れて?『毒食らわば皿まで』って言うじゃないか」

「海斗さん、それだいぶ意味が違……ん」
 
 更に抗議しようとする綾を黙らせるように海斗は綾を抱きあげたまま唇を重ねてくる。

 海斗のキスは綾の思考能力を簡単に奪う。随分と甘い毒を飲まされているかのようだ。

「……ダメ、です、キスされると、何も考えられなくなっちゃう……」

 思わず甘えたような声が出てしまう。きっと蕩けそうな顔をしているだろう。

「わざとだ。君を逃がしたくないから……こうしてる」
 
 熱っぽい彼の声が鼻先で聞こえた後、再びキスが深められる。
 
「このまま……君を貰ってもいい?」
 
 一旦キスを終えた海斗は言葉では確認するものの、返事を聞く気は無いのか有無を言わさない雰囲気で綾を抱いたまま部屋の中に入っていく。
 
「あの、でも……出来ればシャワーなど……」
 
「ごめん。次からは聞いてあげられるけど、今夜だけは諦めて?――僕は同じ失敗は繰り返さない」

「……」
 
 後半の言葉にやけに実感がこもっている気がする。
 どうやら乙女の恥じらいは聞き入れてもらえないらしい。
 
 海斗は迷いの無い足取りで広い室内を歩き、ゲストルームに到着する。
 
 そこでやっと綾は海斗の腕から解放された――ベッドの上で。
 
 紺色のドレスのスカートが白いシーツの上にふわりと広がる。
 
 高鳴る綾の心臓の音とは裏腹にキングサイズのベッドは物が良いのか二人分の体重が乗っても軋む音ひとつしない。
 
 いつのまにかジャケットと蝶ネクタイを取り去った海斗に組み敷かれていた。

「綾、綺麗だ……愛してる。僕のものになって欲しい」
 
 綾の頬を撫でながら海斗が囁く。本当に愛しいものを見るような蕩けるような表情だ。
 
 そんな海斗の方が綺麗な顔をしていると思う。でも、彼の瞳は小動物を捕食する前の狼のような獰猛さも湛えていて――本気になったこの貴公子からは逃れる事が出来ないと本能的に感じる。
 
 綾も片手を伸ばして彼の少し冷たい頬に触れる。

「私も海斗さんを愛して……ます」
 
「……やっと、君を手に入れられる」

 熱を帯びた溜息と共に海斗が呟く。

 ふたりの間にはもう余計なものは無く、ただお互いを愛おしく思う気持ちが存在するだけだった。
 
 それでも海斗は不安なのか、愛しい恋人が逃げないように再び唇を重ねてきた。
 組み敷く彼女の吐息さえも自分の物だと主張するように、深く。
 
 甘い毒で完全に動けなくなった綾に満足した海斗は、ゆっくりと紺色のドレスに手を掛けていった。
 
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