厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「晴持さまを亡くされた悲しみから立ち直るには、御屋形様にはまだ、時間がご必要なのかもしれませんね」


 冷泉どのは回廊から、庭園のはるか向こうの空を見上げながらつぶやいた。


 「だが誠心誠意お仕えしていれば、いずれは心も癒され、以前の御屋形様に戻ってくださると私は信じております」


 「私も……。そう信じたいのですが」


 「この度の一件では、私も御屋形様に対し申し訳ない気持ちで一杯でしたが、一番つらいのは陶どのだと思います。これからも苦難の道は続くと思いますが、くじけず前に進んでほしいです。私もできる限り力をお貸ししますので」


 「まことにかたじけない。誰も彼もが私を非難してばかりで、心が折れそうになっていました」


 遠征に最初は反対していたが、途中からは同調し始めた者。


 昨今の尼子の弱体化ぶりに乗じて、このまま一気に攻め滅ぼしてしまえと煽っていた者。


 そのような連中にも責任の一端があるはずだが、全責任を私に押し付けて知らん振りを決め込む輩の何と多いことか。


 そんな中、冷泉どのだけは私に味方してくれた。


 不安と後悔に覆われていた私の心は、冷泉どのの言葉で救われたような気がする。
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