厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 唯一無二の存在として必要とされ、いざという時頼りにされるのは、私にとってこの上ない誇りであるのは間違いない。


 だが。


 狂おしいほどに愛された頃の記憶が私を苦しめる。


 もはや愛が消え失せたというならば、いっそのこと遠ざけてもらいたいと思ってしまうほど。


 九州へと飛ばされた、相良のように。


 中途半端にそばに置かれることは、私に一層の苦痛を与えるのだった。


 それは甘い拷問のごとく。


 「私にはお前しかいない」


 などというのは、一種の呪文。


 気まぐれな御屋形様の一挙手一投足が私を翻弄し、私を少しずつ壊していく。


 「……見るがいい。もはやここは京の都を超えている」


 ある晴れた日、御屋形様と私は物見櫓(ものみやぐら)に上り、山口の街並みを眺めた。


 そこからは京の都のように、碁盤の目のごとく整った街並みが確認できる。


 ここ大内屋形に隣接する迎賓館・築山御殿(つきやまごてん)が広がり。


 遠く丘の麓には、山口の象徴ともいえる瑠璃光寺(るりこうじ)の五重塔が輝いて見える。
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