厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
***


 政敵の相良武任(さがら たけとう)の失脚そして九州での隠居に伴い。


 私は大内家内での重要な地位を取り戻した。


 かつてのように御屋形様のそばで政務に励み、御屋形様をお支えし……。


 「隆房に任せておけば間違いない」


 と御屋形様に言わしめるほど、第一の側近として活躍していた。


 大きな決め事がある際は、必ず私に意見を求めてくださる。


 常に私は必要とされている。


 以前のような日々が戻ってきた。


 ただ……。


 昔のように、御屋形様は私の体を求めてはくださらない。


 そばにいることは許されても、家臣として必要とされるだけ。


 私の本拠地との中間地点にある寺で密会し、朝が来るのも惜しいくらいに抱き合ったような甘い夜は……取り戻すことが叶わなかった。


 馬で五時間かけて私の元を訪れ、深い眠りの底にある私の寝顔を見て和歌を残して帰られたことなど、もはやはるか遠い日々の幻。
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