厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ……。


 「毛利は以前は尼子派でしたよね」


 乱れた襟元を調えながら、御屋形様に問いかける。


 「元就の妻は尼子一族の娘というように、婚姻関係によっても結ばれていた。だが長年の尼子からの圧力に、元就もついに嫌気が差したのだろう」


 しばらく戦もなく、平穏な日々が続いているとはいえ。


 御屋形様は公務にいつもお忙しい。


 そのお忙しい公務の合間を縫って時間を設け、こうやって松ヶ崎の寺へと私を呼び出して……。


 「尼子経久が、孫の晴久に家督を譲ったのが契機でしょうか」


 「だろうな。いくら高圧的とはいえ経久は名将の誉れ高い人物。それに比べると孫の晴久はまだ若輩ということもあり、強引な政策が目立つ」


 「とはいえ簡単に風向きを変える者を、そうたやすく迎え入れてよろしいものでしょうか」


 「元就は嫡男を、あえて大内家へと人質に差し出してきた。ここまでして大内に尽くそうとしている者の窮状をみすみす見逃したとあっては、他の傘下の者たちに対しても示しがつかない」
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