厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 毛利隆元(もうり たかもと)。


 毛利元就の嫡男。


 元就は大内家への服従を証明するために、嫡男を御屋形様への人質として差し出した。


 人質はつまり両家の同盟が破綻した際は殺される存在であるが、御屋形様は隆元を手荒に扱ったりはせず。


 同盟関係にある家の嫡男として丁重にもてなし、元服前は小姓の一員に加え。


 元服後も側近の一人として、重臣たちの列の中に加えている。


 元服の際にも御屋形様は自らの名の一字「隆」を与え、「隆元」と名乗らせた。


 その隆元は私より二つ年下で、真面目な性格で、そして元就には似ず容姿端麗で。


 御屋形様がまさに好まれる……。


 「また妬いておるのか」


 御屋形様が私の耳元で囁く。


 「皆が噂しております。御屋形様が今一番ご寵愛なされているのは、隆元であると」


 私は御屋形様から身を離す。


 ……噂によれば、最近御屋形様がお忙しいのは公務のためだけではなく。


 毛利家の人質である隆元を大層気に入られ、人質らしからぬ待遇で常にそばに置かれていると。
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