厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「……」


 辺りからすすり泣く声が聞こえ始めた。


 家人たちが大きな箱を、御屋形様の評定所正面の庭園へと運び込んだ。


 それは棺であり、中には晴持さまのご遺体が納められているという。


 信じたくないし、晴持さまの死を認めたくもないが……誰かが確認しなければならない。


 皆躊躇している。


 誰も皆、現実を受け入れたくはない。


 だが……。


 「私がご確認申し上げる」


 勇気を振り絞って私が立ち上がったところ、


 「隆房、私がまいる」


 御屋形様が縁側へと歩み出た。


 「これは当主であり父である、私の役目だ」


 御屋形様は庭に降り、棺の前に立つ。


 そして蓋を開けると……。


 「晴持……!」


 晴持さまの遺体と対面なさった御屋形様は、泣き崩れてしまわれた。


 「御屋形様!」


 崩れ落ちる御屋形様を支えるため、私も棺の前まで歩み寄った際。


 晴持さまのご遺体が目に入った。


 「……!」


 発見されるまで長い時間、冷たい海の中を漂っていたため。


 あれほど若くて美しかった晴持さまは、見るも無残な姿に成り果てていた。


 これまで戦場で無数の亡骸を目にしている私でさえ、あまりにつらくて目を逸らしてしまった。
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