今夜はずっと、離してあげない。



こんなにやさしくてあたたかい人を、好きにならない方法があっただろうか。

好きにならない方が、きっと楽だった。


でも、好きになったあとじゃ、そんなの後の祭りもいいところ。

きっと、この感情は、もうどうしようもない。



「ほら、泣いてる暇があるなら鍋食うぞ。冷めたら美味しくなくなる」

「伽夜も伽夜で食事第一なところありますよね……」



ふう、と一息ついて、まるで何事もなかったかのように、箸を動かすのを再開する。


けれど、あきらかに違う。

いままでの食卓と、たずさえる気持ち、それに、私の心と感謝。


どれも重みや、意味合いがちがう。

それはわざわざこの場で口にすることではないけれど。



「……かや」

「なんだ?」

「……イヴの日、手、繋いでてもいいですか?」



ちびちびと白菜を食べながらそう言えば、伽夜の顔が瞬きをする間に見たことないくらいほころんで。

二度、頭にふれた手は、仕方ないな、という意味ではなく、たぶん、ありがとう、がこめられたものだったように思う。





─────その日のキムチ鍋は、涙が出るほど辛くて美味しい、一生記憶に残る味がした。


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