御曹司、家政婦を溺愛する。

この都会の一角だけ、まるで別世界に飛び込んだようなエリアがある。
ベリーヒルズビレッジ。
超高層オフィスビルには大手有名企業、格式高いホテル、最高級の食材を揃えたレストラン、会員制VIPエリア、そして最上階に展望台があるという、どれを取ってもクオリティはまさに圧巻。更に屋上にはヘリポートまで完備されているところが、ビル自体すごいのだが嫌味に思えないのだ。
当然そんなビルの中で働く全ての人は、プライドと誇りを持つエリートばかりである。

私の働く会社は、このオフィスビルの二階のライフサービスと呼ばれるゾーンの中にある、小栗ハウスサポートだ。内勤スタッフと家事代行サービススタッフを合わせて六十名ほどの会社だが、なかなか忙しく働いている。

私は手渡された書類を眺めた。このビルの向こうに見える、真っ白なレジデンスに住む新堂リゾートの御曹司。

どくんっ。

心臓が痛いくらい脈を打つ。
諦めて、蓋をして、もう二度と思い出さないように心の奥に沈めた恋心のはずだった。
書類を持つ手が震える。

「どうして、私を指名するの……?」
胸に手を当てて、頭を大きく左右に振る。

──今は何も考えるな。仕事に行くんだ。

そう言い聞かせて、私は部屋を出た。

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