御曹司、家政婦を溺愛する。

先日、財閥のパーティーに出席した時だった。
親しくしてもらっている主催者の東和泉さんに挨拶をしようと、彼を探していた。
「隼人さん、ごきげんよう」
その声が大河内美織だとすぐにわかり、振り向く。
「……お前も来てたのか」
特に会いたい相手ではなかったが、一応親同士の決めた許嫁なだけに、雑な扱いができない。
いつもは下ろしているストレートな黒髪も、今日は結い上げてキラキラと眩しい大きな髪飾りをつけていた。美織のドレスは派手目で華やかなものが多いが、今日の着ているものは大人しい感じがした。
彼女は出席できない父親の代理で来たと言っていたが、指図め親父たちが企んで俺たち二人を周りに披露するつもりだったのだろう。

くだらん。

おかげでやっと見つけた東和泉さんに挨拶すれば、
「もうすぐ結婚するんだっけ?何かお祝いするよ」
なんて言われるし、美織が浮かれて「はい、そうなんです」なんてありもしない事実を作り上げる始末。そして周りからも注目されて居心地が悪すぎる。

ベリーヒルズのオフィスビル、VIP専用ラウンジを貸し切っての大きなパーティー。
その隅で、俺は美織を睨んだ。美織はムッと口を尖らせる。
「どうせ「俺はまだ結婚する気はない」と言いたいんでしょ。私たち、もう三十なのよ。私、自分が綺麗なうちに結婚したいの。隼人さんだってその方がいいでしょ」

最近は彼女と会えば、この話ばかりだ。いい加減うんざりした俺は「先に帰る」と会場を出た。
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