御曹司、家政婦を溺愛する。

レジデンスに帰ると、親父から電話があった。
『パーティーに美織さんを置いて帰ったのか?大事な許嫁なんだから優しくしろ。大河内と話したが、二ヶ月後にお前たちの婚約パーティーを予定している。これ以上、先延ばしにするなよ』
そう言われて、一方的に切られた。
「ちょっ……親父?」
言い返すこともできず、俺の苛立ちは重なっていく。
これを発散させようと、事情を知る関口に電話した。

「体調が悪い。親父の顔を見ると反吐が出る。しばらく在宅ワークにするからよろしく」

彼に「小学生か!」と突っ込まれたが、そんなことはどうでもよかった。
そして二週間後、関口は嫌がらせのように女を寄越し、母は家政婦を寄越した。

女たちを帰らせた家政婦。
母はどこでこの女を探してきたのか。
あの頃より大人の女性の顔つきになり、忘れるはずもない面影に、ドクドクと心臓が暴れるくらい懐かしいその姿に。

佐藤 鈴。

もう会うことはないと思った相手なだけに、すっかり動揺して、しっかり嬉しかった。
しかし、最悪なコンディションの俺を見られてしまうのが嫌で「帰れ」と言って遠ざけた。荒んだ生活も、堕落した俺も、佐藤に見られるのが嫌であの手この手で近づけないようにした。
レジデンスに来なくなったかと思えば、毎日コンシェルジュに電話をして俺の様子を聞いていたことに驚く。仕事とはいえ、ここまで粘り強く俺と向き合おうとする根性が、高校の頃の佐藤と重なった。

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