あやかしあやなし
「うむ、これでしばし寝ておれば、傷は塞がろう」

 妙な膏薬を烏鷺の身体中に塗りたくり、和尚が息をついた。見ると、円座の上で妙な膏薬を塗りたくられたお陰で妙な色になった烏鷺を、惟道が膝の上に乗せて布を巻いている。血まみれになることも厭わなければ、膏薬で手や膝がべとべとになることも気にならないようだ。

「あー、もう。惟道、巻き終えたら円座に置いてよ。そのまま膝に置いたら、折角巻いた布の外側も膏薬まみれになるよ」

 小丸が惟道の膝先に、ささっと円座を差し出す。

「そんな薄い円座一枚だったら、傷が痛むんじゃなかろうか」

「じゃあほら、これでいいでしょ」

 ばす、と小丸が円座を三枚重ねた。ぽんぽん、と固さを確かめ、ようやっと惟道は烏鷺を置く。

「さて烏兎、話を聞かせて貰おうかの。といっても大方山から降りてみたら、都の物の怪狩りに引っ掛かった、といったところかのぅ」

 和尚が水盥で手を洗い、腰を落ち着けると、烏兎は小さく頷いた。

「この烏鷺は、まだ烏天狗になりたてで赤子のようなものじゃ。鞍馬では久々の赤子じゃし、初めに見つけたわしが面倒を見ておった。鞍馬は都に一番近い烏天狗の本拠地じゃし、その分都の人間との付き合いもある。早いうちから人に慣れておいたほうがよかろうと、山を降りたのじゃ。そしたら都の空気が違うではないか」

「鞍馬には物の怪狩りの噂は知られてなかったの?」

「最近は都に行く者も少なくなっておったからの。要請もないし」
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