あやかしあやなし
 本拠地を持っている物の怪というのは、ある種閉鎖的なものだ。鞍馬寺には人の僧侶がいるとはいえ、やはり山籠りしているに変わりはないので、都の噂など逐一入ってくるわけではない。

「迂闊だったのぅ。じゃが、ここまでの怪我をさせるということは、陰陽師のやっている物の怪狩りというのは、かなり物騒なものなのじゃな? 言葉通り、狩っておるのか?」

『僕も実際その現場を見たことはないからなぁ。守道も大して知らなかったし』

 章親も首を傾げる。守道のほうが社交的な分、噂話も入りやすい。だが守道も、ちらっと聞いたことがあるような、という程度だった。

『陰陽寮ではそんな話、あんまり誰もしてなかったし……。守道も大して知らないとなると、宮中でも知られてないことになるな。陰陽師がしてることではないのかな?』

「そんなことはない!」

 いきなり烏兎が大声を上げた。

「あれは紛れもなく陰陽師じゃ! 大体このような技、その辺の人間が繰り出せるわけはない!」

『まぁ只人であれば、そうだろうけど……』

 ちろ、と章親は惟道を見た。惟道自身は特に術を使えるわけではないが、惟道に鬼を植え付けた道仙はれっきとした術師だ。世間には陰陽師でなくてもそういった術を使える者もいる。

「そもそも陰陽師であれば、都の成り立ちも知っているものだろう? お上に仕える者が、むやみに物の怪を狩るようなことはせぬと思うが」

 世間のことをとんと知らない惟道だが、章親のところにいる間に、いろいろな書物を読んだ。陰陽師の家なので、書物もそういったものが多くなる。お陰ですっかり歴史的な事柄に詳しくなった。
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