あやかしあやなし
『びゃ……びゃ……』

 烏兎を認めると、烏鷺は小さく力ない声で何かを訴えた。うむ、と頷き、烏兎は再度惟道を見る。

「……おぬし、本当にいいのじゃな?」

「構わぬ」

 一切の迷いなく頷く惟道に、またも微妙な表情になりながら、烏兎は、ちょい、と床を指した。

「ではそこに横になるがいい」

 言われた通り惟道が烏鷺を抱いたまま横になる。烏兎が右手で印を結び、左手を惟道の額に翳す。たちまち惟道の目が閉じられた。

『……びゃ』

 もそもそと、惟道の胸の上の烏鷺が身体をよじり、少し困ったように烏兎を見る。

「……自衛の術が強すぎるか。さすが道満じゃの」

 惟道を覗き込み、烏兎がため息をついた。どうやら昔、道満が教えた周りのものを下手に取り込まないための術が、無意識でも発揮されているらしい。惟道ほどの『空の器』となると、それこそ無意識で遮断できないと意味がないのだ。

『それこそ召喚術で強制的に入れられない限りは、よほど強いものでないと簡単には入れないかも』

 章親が言い、ずい、と前に出た。烏鷺の上に片手を翳し、もう片方の手を惟道の口元に翳す。

『僕はあんまり、こういうことはしたくないんだけど……。でも惟道が望んだことだし、やっぱり僕も、毛玉や魔﨡が死んじゃいそうなほど弱ってたら、同じことするかなって思うし』

 そう言って、呪を唱える。途端に烏鷺の姿が霞み、翳された章親の手に吸い込まれた。一瞬だけ章親の顔が苦しそうに歪んだが、次の瞬間には反対側の手から何か黒い空気の塊のようなものが、惟道の口に吸い込まれた。
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