あやかしあやなし
「道満殿も兄君も、安倍の名など出したこともない。まぁ、おぬしという知り合いがおるのに一度も京に帰らなんだのは、意地もあったのやもしれぬがな。いつまでもぐちぐちと恨み事を言っていたのは道仙だけだ」

「……ま、道満の性格であれば、そうそう物事には拘らぬであろうの」

 何となく事情を察した烏兎が、適当に話を切り上げた。

「おぬし、道満殿を知っておるならわかるだろう。当時は何のことやらわからなかったが、どうやら道満殿は、俺が幼い頃より下手にものを取り込まぬよう教え込んでいたらしい。自然にそうなっておる、ということであろう?」

「うーん……。おぬしが幼い頃から道満が仕込んだのであれば、大丈夫であろうがのぅ。ただ確かに、わしらやそこな狐は、普通の物の怪とはわけが違うからのぅ」

「大丈夫だ。それこそ章親がいるのだし」

 きっぱりと言い、惟道は膝に乗せた烏鷺を、そろりと胸に抱き上げた。

「おい雛、聞こえるか? お前、人の中に入れるか?」

 惟道の腕の中で、烏鷺がうっすら目を開けた。

「あっ。気がついたかっ」

 自分で呼び掛けたのだが、きちんと反応があったことに、惟道が少し弾んだ声を出した。おお、と章親も小丸も目を剥く。

「よし。頑張って俺の中に入れ。多分普通の人よりも、居心地は良いはずだ」

 烏鷺は力のない目で、じ、と惟道を見た後、きょろ、と視線を動かした。それに惟道は即座に反応し、烏兎を手招きした。

「あんたを呼んでるようだ」

「……」

 呼ばれた烏兎が、また微妙な顔で惟道に近付く。
< 49 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop