あやかしあやなし
「大変だ、どうすればいい? 俺を食らえば良くなるか?」

 惟道とも思えない狼狽えようで、そして倒れる男らには目もくれず、ぐいぐいと小丸に迫る。

「もー、落ち着きなって。そもそも烏天狗は人を食うようなものじゃないでしょ。それよりも、気を綺麗に保つほうが大事よ。惟道の中は普通の人よりも居心地良いはずだから、その状態を保っていれば回復も早いよ」

「そ、そうなのか」

 ほ、と息をつく惟道に、やれやれ、と肩を竦め、小丸は足元の少年を足先でつついた。

「しかし困ったな。こんな大の男、運べないじゃん」

「全く意識がないわけではなかろう。特にそっちは、さほどでもないようだし」

 倒れている青年の腕を、ぐい、と引っ張り、自分の肩に回す。まだ足元は覚束ないようだが、気にせずそのままずるずると引きずるようにして連れていく惟道を、小丸はちょっと呆れたように見た。全く物の怪のことは我が身よりも心配するのに、人に対する扱いは驚くほどぞんざいだ。

「さぁ、あんたもさっさと立って。言うこと聞かなかったら、今度は脳みそ潰すよ」

 さらっと恐ろしいことを言い、小丸も膝をついていた少年を促した。人に対する扱いは、小丸も人のことは言えない。
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