あやかしあやなし
 守道の攻撃を阻んだ道仙の結界は、なるほど強固ではあった。安倍家に並ぶ名門、加茂家の陰陽師の術をも弾いた道仙の結界だ。それを見た惟道が、己の血を道仙につけたのだ。
 惟道が道仙に逆らった、初めてのことである。惟道にとっては、逆らったというよりは、単に長年の疑問を試しただけだが。

 惟道に鬼を植え付けたとき、道仙は、自分自身が術をかけたので、鬼は召喚者である道仙に襲いかかることはないと言った。だが本当に惟道の血を浴びても大丈夫なのだろうか?

 道仙からすると、いかに惟道が従順とはいえ、それこそ長年虐げてきたのだ。いつ牙を剥くかわからない。昔から惟道を見てきた限り、この喜怒哀楽とは無縁の男が、己を恨むことなどないのではないか、と思うのだが、心の内が全く見えない者ほど恐ろしいものはない。心の奥底では、常に惟道を恐れていた。

 そして、それが現実になった。

 惟道の血は道仙の結界を越えた。血のついた道仙を狙って、現れた鬼が飛びかかった。召喚者であっても穢れがついたら喰われるのだ。だが鬼は、道仙の張った結界に阻まれた。それほど強固な結界だった。だが。

 惟道の態度に激昂した道仙は、思わず持っていた扇を惟道に投げつけた。その瞬間、道仙を守っていた結界が破れた。これが惟道言うところの、道仙の『穴』だ。術を正しく理解していなかったため、あれほど強固だった結界は簡単に壊れた。そしてそれ故、道仙は鬼に喰われた。

 惟道の額の傷は、道仙の投げた扇によるものだ。結界の内側から衝撃を与えたことで道仙の結界は破れたが、扇が惟道の額の印を傷付けたことで、惟道に施されていた結界も破れた。道仙に喰らいついていた鬼を安倍章親が滅し、惟道と鬼の関係も解消されたのだが、惟道の額には印の代わりに大きな傷痕が残ってしまった。
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