もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
 藤島(ふじしま)が黙ったから、困った沈黙があたしたちのうえにふってくる。
(うっわぁ……)
 あたしたちってば、なにやってるの?
(なに見てるんだ、ばか)
 あたしってば、なにやってるの?
(なに見てんのよっ)
 こんなのは絶対、見つめあってるとは言わないと思うけど。
 なんにしたって、冗談じゃない。
 さっさとなんか言え!
 この、あたしが、待ってやってるんだから。
 あんたなんか、あたしの子分だったんだから。
 ほとんど勝負みたいになった見つめあいは、あたしの勝ち。
 前髪をあちこちにはねあげた顔で藤島がうつむいて、小さくため息をついた。
(ほっ……)
 いっしょについたため息は根性で隠す。
 なんだか心臓がドキドキしてるけど。
 なんでかなんて、そんな理由、あたしは絶対に考えないからね。
 話があるなら、さっさとしろ、ばか。
 あたしは、あんたが、きらいなんだから。
 あたしには、あんたと語りたい、どんな話もないんだから。
「なに?」
 イライラがにじむ声でなじると、藤島の顔があがる。
「なんか、さ。けさの……変なうわさになっちまって――…」
「ああ」
 思いっきりむかついた。
 ひとをさんざん待たせておいて。
 なにを言いだすかと思ったら、あの! クソくだらない、うわさのこと?
(ふん!)
 思いださせてくれて、どうもありがとう。
 この気分を思いだすだけで、あと百年は、あんたと口をきかないでいられるや。
 決意も新たに、くるっと向けたあたしの背中に、
「ごめん!」
 思いがけない藤島の声。
(…っくしょう)
 なんでここで、あやまるんだ、ぼけ。
 ああ、もう!
 ずっとずっと、それこそ来世までうらんでやろうと思っていたのに。
「関係ないじゃん、きみには。いいよ。気にしてないから」
 あやまられちゃったら、そう言うしかないだろがぁ。

 も、超、超、超、不愉快!

 早足で歩きだすと、藤島がついてくる。
「おれ、ちゃんと言ったんだぜ。ちゃんと言ったんだ。そんなんじゃねえって」
 弁解なんかするな!
 なさけなさは子分だったムカシのままのくせに。
 背だけはあたしを追い越した藤島の、頭のうえから降ってくる声が憎らしくて。
「そんなのじゃ、ない?」
 追求するのはやめろと、心のどこかは叫ぶのに止まらない。
「それじゃあ、どんなのなのよ?」
「…………」
 藤島は答えなかった。
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