もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
6.走り出す思い
6.走り出す思い

「ごちそーさまぁ。サラダ、すっごくおいしかった」
 声をかけると、テーブルの向こうで母さんが、トーストを口にくわえたまま硬直。
「…どうしたの? いったい」
「なによ。ほめられて、うれしくないの?」
「だって、めずらしい……。雪でも降るんじゃないかしら」
 失礼な。
 でも。
「行ってきまーす」
 玄関のドアを開けるのさえ、いい気分。
 昨日の最低な気分がうそみたいだ。
 なにしろ、てっきり怒ると思った涼子(りょうこ)がゆうべの電話で、
『またケンカしたぁ? ほんとに、しようがないわねえ、明緒(あきお)は。そんなに藤島(ふじしま)くんがきらいなの?』とかって。
 ため息ひとつで許してくれたから。

 まあ、さ。
 本当に好きなら関係ないものね、ほかのだれかとの過去なんか。
 過去は過去、いまはいまで、自分の気持ちを大切にしたらいい。
 自分の知っていること、自分の目で見たことを信じればいい。
 悪党に恋する友だちを(さと)してあげないの? というモヤモヤは残るけど。
 最後に選ぶのは自分だものね。
 あたしに忠告されても恋を取るなら、それで傷ついたって自分のせいだって思えるでしょ? いやたぶん。
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