もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
「あら! それって要するに、まぬけだってことじゃないの?」
 涼子(りょうこ)がぽろっともらした感想で、笑いかけていたみんなの顔が凍りつく。
(うふっ)
 あたしはうつむいて笑いをこらえるのが精いっぱい。
 姫オブ姫は、あたしたち庶民のように空気を読まない。
 人生の主人公だから。
「あたしだったら、そんなバーゲンセールでも残ってたようなものは買わないわ。ねぇ明緒(あきお)。あなただっていまの話、近藤さんがまぬけだって思うでしょ?」
 あー。同意を求めるのはやめてちょうだいね。
「…でもまぁ、裏地がほつれてるのを見落としちゃったのは近藤ちゃんの失敗だったかもねぇ。なにしろバーゲン品なんだし」
「でしょ、でしょ」
 涼子がニコニコとナプキンに包むお弁当箱はカラだ。食欲は戻っている。
「明緒までひどーい」
 近藤ちゃんはプリプリ怒るけど席は立たない。
 お弁当を広げている女子は6人。
 異分子は涼子ひとり。
 5対1だと思っているからだろう。
「それにしたって……」三木ちゃんがおはしを置いた。
「少しは言葉を選びなさいよ、(あずま)さん」
 おお!
 さすが三木ちゃん。
 空気を読むオトナ姫。

 東 涼子には少しつらい思いをさせたほうがいいと思う。

 そうはっきりあたしに言ってきたのは三木ちゃんだけだ。
 副委員長の三木ちゃんはきっと、嵐が吹いても教室の真ん中にいるだろう。
 頼もしい。
< 65 / 153 >

この作品をシェア

pagetop