惚れたら最後。
脱衣所で身体を拭いていると絆もあがってきた。

そのたくましい濡れた背中を見てふと疑問に思った。



「そういえば絆って刺青入れてないよね」

「墨?まあ、時代が変わったからな。
ぶっちゃけああいうのは強制じゃねえし自己満足だ。
ヤクザの刺青には『組に忠誠を誓う』もしくは『威嚇』の意味がある。しかしそういう考えはもう古い。
俺もあんまり興味がねえし入れてねえよ」

「ふーん」



まじまじと広い背中を見つめていると、絆が振り返った。



「なに、墨いれてほしい?」

「ううん、ただ単に気になっただけ。
絆はそのままでいいと思う」



そう伝えると絆は「そっか」といってタオルで髪をワシワシ拭いた。

下着を身につけていると、絆は全裸のまま洗面台まで歩いて鏡を見た。



「あー、だいぶ色落ちた。そろそろ髪染めるかあ。
琥珀、次染めるならどんな色ががいいと思う?」

「それより早くパンツ履きなよ!」

「何?恥ずかしいのか琥珀。ウブだな〜」



余裕ありまくりの絆におちょくられている気がして、ムスッとした顔をした。



「ははっ、その顔かわいい」

「……」



だけど絆にとってはどんな顔も「かわいい」と感じてしまうようなので、無言でそそくさとリビングに出た。


「琥珀、なんか飲むか?」



半裸で脱衣所から出てきた絆は、冷蔵庫を開けて中をのぞく。

座っていたソファーから立ち上がって絆がいる方に近づいた。



「赤ワインまだあったっけ?」

「あー、琥珀ワイン似合うよな。あったあった」



絆は中から飲みかけの赤ワインともう一瓶取り出してグラスを取りに行った。

そしてテーブルの上に置かれた酒瓶を見て驚いた。



「え、獺祭(だっさい)?ガッツリ飲むじゃん。
絆、昼の宴会はあんまり飲まなかったの?」



グラスを両手に戻ってきた絆は澄まし顔で、アルコール度数の高い日本酒を注ぐ。



「いや、だいぶ飲んだけど俺ザルだから大丈夫」

「そういやあなたまだ未成年よね?」

「そういう琥珀もまだ18じゃねえか」



琥珀は渡されたワイングラスに赤ワインを注ぎ「そうでした」と笑いながら絆と乾杯した。
< 152 / 312 >

この作品をシェア

pagetop